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福岡高等裁判所 昭和24年(ネ)229号 判決

被控訴人は控訴人に対し別紙目録<省略>記載の家屋を明渡し、且昭和二十三年八月一日以降昭和二十六年五月末日迄一ケ月金二千五百円、同年六月一日以降右家屋明渡済に至るまで一ケ月金三千円の各割合による金員を支払え。

訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。

二、事  実

控訴代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は本件控訴並びに控訴人の当審に於ける拡張部分の請求を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とするとの判決を求めた。

控訴人は本訴請求の原因として、控訴人はその所有にかかる別紙目録記載の家屋を昭和十八年五月中被控訴人に対し賃料は一ケ月四、五十円とし、期日を定めず控訴人が必要な場合には何時でも明渡す旨の約定で賃貸した。而して控訴人は昭和十九年に南方から引揚げた者で夫一男は南方で戦死し、母と娘二人の家族を擁し、本件家屋以外に何等資産とてなく、その生活を維持することが困難なため唯一の財源である本件家賃を被控訴人と協議の上物価勝貴に伴つて逐次値上し昭和二十一年四月以降は金二百五十円としたが、インフレーシヨンの昂進につれて右賃料は著しく低廉で、控訴人の生活維持のために増額を必要とするに至つたから、昭和二十二年二月八日控訴人の母を介して一ケ月金五百円にすることを申し入れたところ、被控訴人はこれを承諾して同年二月分の賃料金五百円を支払つたけれども、その後間もなく被控訴人の態度は急変し、控訴人等に対し「お前達は自分が居住させてやつて居るのだ」などと暴言を吐き、事毎につらくあたるようになつたので、控訴人は寧ろ本件家屋を利用して自活の途を図ろうと決意し、被控訴人父子に対して右家屋の明渡しを求めたが、被控訴人の妻の父である訴外佐々木東の仲裁によつて昭和二十二年三月一日控訴人及び被控訴人間に改めて期間を向う五ケ年とし、期間内と雖も、控訴人に必要を生じたときは六十日前に告知して明渡を求め得ること、賃料は一ケ月金五百円とするが物価の変動に応じて協議の上増減する旨の賃貸借契約が成立した。然しながらインフレーシヨンの昂進は益々激しくなり右家賃のみでは到底控訴人一家の生計を維持することができなくなつたので、控訴人の長女留以に医師の婿養子を迎え本件家屋で病院を経営する計画を立てこれがため右家屋を控訴人自ら使用する必要が生じたので、昭和二十三年一月二十七日被控訴人に対して賃貸借契約の解約を申し入れ、右通知は翌日被控訴人に到達したから同日から六ケ月を経過した同年七月二十八日を以て本件賃貸借は終了したものである。尚右長女留以は同年五月二十五日急死したので本件家屋で病院を経営する前記の計画は自然取り止めとなつたが、その後控訴人は右家屋で下宿屋を経営し一家の生計の資を得べく計画中であり、右は解約申入の正当事由と做すべきであるから、右解約の申入は有効である。右のように本件賃貸借は昭和二十三年七月二十八日終了したのであるが、同年八月六日双方の親族の仲裁により控訴人及び被控訴人間に本件家屋の明渡期限を三年間猶予し、被控訴人は控訴人に対し昭和二十六年八月六日限り右家屋を明渡すこと、その間被控訴人より控訴人に毎月金三千円宛を支払う旨の契約が成立した。然るに被控訴人は右約定の一ケ月金三千円宛の支払をしないので控訴人は昭和二十四年六月十六日書留内容証明郵便を以て被控訴人に対し「昭和二十三年八月分以降同二十四年五月分迄の右約定金合計金三万円を受領のため同年六月二十日午後一時参上するから準備されたく、若し支払をしない時は前示契約を解約する旨を通知し、右書面は翌日頃被控訴人に到達した。よつて控訴人は右六月二十日午後一時訴外徳永ハナ及び南部文太郎を代理人として被控訴人方に差向け前示金三万円の支払を求めさせたが、被控訴人はこれが支払を拒絶したので、右契約は適法に解除せられたものである。仮に昭和二十三年八月六日成立した契約が賃借期間を三年とし賃料を毎月金三千円とする新たな賃貸借契約乃至は当時従前の賃貸借契約が未だ存続中であつて、該契約の賃借期間及び賃料を右のように変更した契約であるとしても、右契約は前記のように延滞賃料金三万円の支払不履行を原因として適法に解除せられたものである。

よつて被控訴人に対し本件家屋の明渡並びに昭和二十三年八月一日以降昭和二十六年五月末日迄一ケ月金二千五百円及び同年六月一日以降右家屋明渡済に至るまで一ケ月金三千円の割合による賃料並びに損害金の支払を求むるため本訴請求に及んだ旨陳述し、被控訴代理人の答弁に対し昭和二十三年八月六日成立した契約に於ける一ケ月金三千円の賃料中には控訴人に対する生活補助費を含んでいるから、右約定賃料は地代家賃統制令に牴触するものではない。尚被控訴人が昭和二十三年八月一日以降昭和二十六年六月末日迄一ケ月金五百円宛を弁済供託したことはこれを認めると述べた。

被控訴人の答弁は、先ず控訴人の請求原因の変更に対し、控訴人は従来本件家屋につき昭和二十二年三月一日成立した賃貸借契約が解約の申入により終了したことを原因として右家屋の明渡を求め、当審最終口頭弁論に於て右主張を変更して本件家屋につき昭和二十三年八月六日成立した契約の解除を原因として右家屋の明渡を求めたものであつて、その請求の基礎に変更があるから許すべからざるものであると述べ、本案につき控訴人主張の日その主張のような賃料支払の催告並びに条件付解除の通知のあつたことはこれを認める。然しながら昭和二十三年八月六日成立した契約に於ける一ケ月金三千円の賃料の約定は地代家賃統制令に違反し、その統制額を超過する部分は無効であり、被控訴人は昭和二十三年八月一日以降昭和二十六年六月末日迄毎月五百円宛の賃料を弁済のため控訴人に提供したが受領を拒絶せられたので、これを供託したのであつて、被控訴人には右賃料債務不履行の責はないから控訴人の前記契約解除の意思表示は無効であると述べた外、原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。

<立証省略>

三、理  由

先ず訴変更の許否につき検討するのに、控訴人は原審以来本件家屋につき昭和二十二年三月一日当事者間に成立した賃貸借契約が、控訴人の為した解約の申入により終了したことを原因として右家屋の明渡を求め、当審最終口頭弁論に於て右主張を変更し本件家屋につき昭和二十三年八月六日当事者間に成立した明渡猶予の契約乃至賃貸借契約の解除を原因として右家屋の明渡を求めたことは本件記録に徴し明かであるが、控訴人の本件家屋明渡の請求は前後いづれも右家屋につき当事者間に成立した契約の終了を原因として右家屋の明渡を求めるものであつて、控訴人の右主張の変更は訴の基礎に変更がないものと解すべきであるから被控訴人の抗弁は理由がない。

よつて本案につき審按するのに、控訴人所有の本件家屋について昭和十八年五月中控訴人及び被控訴人間に賃貸借契約が成立し、賃借期間の定めはなく、賃料は当初一ケ月金四、五十円位であつたが逐次値上され、昭和二十一年四月に金二百五十円に、次いで昭和二十二年二月に金五百円に増額されたこと、昭和二十二年三月一日訴外佐々木東が仲に入つて当事者間に控訴人主張のような賃貸借契約が成立したこと、並びに昭和二十三年一月二十七日控訴人から被控訴人に対し右賃貸借契約の解約の申入を為し、右通知が翌日被控訴人に到達したことは当事者間に争のないところである。

而して右解約の申入が無効であつてその効力を生じないものであること及び昭和二十三年八月六日当事者間に本件家屋につき賃借期間を三年とし、賃料を控訴人家に対する生活補助費を含めて一ケ月金三千円とする契約が成立したことについては原判決の当該部分に関する摘示理由の通りであるから右摘示を引用する。(右認定に反する部分の当審証人宮原芳太郎、徳永ハナの証言、控訴本人の当審に於ける供述は措信し難い。)

次に控訴人がその主張の日、本件家屋に対する昭和二十三年八月分以降昭和二十四年五月分迄の延滞賃料合計金三万円につき、その主張の如き支払の催告並びに条件付解除の意思表示を為したことは当事者間に争のないところであつて、当審証人南部文太郎の証言によれば控訴人主張の日時同証人及び訴外徳永ハナが控訴人の代理人として被控訴人方に赴き被控訴人に対し右金三万円の支払を求めたが、支払を拒絶されたことが明かである。被控訴人は一ケ月金三千円の賃料の約定は地代家賃統制令に違反し、その統制額を超ゆる部分は無効であり、被控訴人は昭和二十三年八月分以降同二十六年六月分まで毎月五百円宛の賃料を弁済のため控訴人に提供したが拒絶されたのでこれを供託したものであつて、被控訴人には右賃料の支払につき不履行の責がないから、控訴人の右解除の意思表示は無効である旨抗争するけれども、右契約において一ケ月金三千円宛の支払を約した所以は、控訴人と被控訴人とは近親の間柄であり、控訴人は姑と一女とを擁する寡婦であつて本件家屋以外には資産なく、専らこの家屋の利用によつて生計の道を立つるの外ない窮乏の状態にあつて、屡々この家屋の返還を要求していたが、被控訴人は老齢の実父が医業を営んでいる宏荘な家屋があつて、ここに移ろうと思えば移り得べきに拘らず(現に被控訴人は父の医院をも手伝つている)、自家の利益及び感情のもつれのため本件家屋の返還を肯んぜず、当事者間に紛争を生じた為め、親族等の仲裁により、返還の期限を三年とする代りに、差当つての控訴人の生活困難を補助するため、かくの如く約した次第であることは、原審及び当審証人徳永ハナ、有久直忠、宮原芳太郎、宮原栄太郎、当審証人生島一郎の各証言及び当審における検証の結果を綜合して之を認むるに十分である。然らばかくの如き約定は公平を理念とする法の精神に照し現在の社会情勢の下において極めて妥当なものであつて、地代家賃統制令の適用される領域の外にあるものと解すべきである。従つて仮に被控訴人主張のように毎月五百円を右賃料の弁済として控訴人に提供したとしても右は債務の本旨に従つた弁済の提供というを得ないからこれに基いて為された被控訴人の供託は固より無効であり被控訴人に右賃料債務不履行の責があること勿論であるから右抗弁は採用しない。

さすれば控訴人の右解除の意思表示は有効であつて、これにより本件賃貸借契約は適法に終了したものであるから、被控訴人に対し、本件家屋の明渡並びに昭和二十三年八月一日以降同二十六年五月末日まで一ケ月金二千五百円同年六月一日以降明渡済に至るまで一ケ月金三千円の割合による賃料並びに賃料相当の損害金の支払を求むる控訴人の本訴請求は全部正当としてこれを認容すべきである。

よつて右と趣旨を異にする原判決は不当であつて、控訴は理由があるので民事訴訟法第三百八十六条、第九十六条、第八十九条を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 小野謙次郎 中園原一 中村荘十郎)

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